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デンマークの教育制度とは?就学前から大学までの流れと特徴を解説

北欧・デンマークは「世界一幸福な国」として知られています。その理由の一つに挙げられるのが、子どもたちの「ありのまま」を受け入れながら育む、独自の教育制度です。

この記事では、デンマークの教育制度の全体像をわかりやすく解説します。就学前から高等教育までの流れ、日本との違い、そして教育と福祉をつなぐ専門職「ペダゴー」の役割まで──。

「子どもを一人の人間として尊重する」とはどういうことなのか。デンマークの教育のあり方を通じて、その本質に触れてみませんか。

目次

デンマークの教育制度の全体像|就学前から高等教育まで

デンマークの教育制度では、学びを通じて知識を得るだけでなく、自分自身の価値観を育み、社会とのつながりを感じながら成長できるような仕組みが整えられています。

特徴的なのは、「自分はどう生きたいか」「他者とどう関わるか」を学ぶ場として、教育が社会全体に支えられている点です。

ここでは、就学前教育から高等教育までの各段階について、制度上の構造とその背景にある理念を交えて詳しく解説します。

デンマークの教育制度の基本構成と年齢区分

デンマークでは、次のような段階で教育制度が構成されています。就学前から高等教育まで、すべての段階で公教育は原則無償です。

教育段階年齢目安機関名・内容
就学前教育0〜5歳保育園(Vuggestue)、幼児教育施設(Børnehave)
就学準備6歳フォルケスコーレの「0年生(ゼロ学年)」または移行クラス(Mini Class)
義務教育6〜16歳フォルケスコーレ(Folkeskole)での10年間の基本教育(0〜9年生)
任意の10年生16歳「第10学年」(10. klasse)として設けられた進路選択支援の学年
中等教育16〜19歳ギムナジウム(Gymnasium)や職業教育訓練(EUDなど)
高等教育19歳〜大学(University)や専門職大学(University College)など

このように、段階ごとに子どもの発達や将来の希望に応じた柔軟な教育選択が可能であり、職業教育と学術教育のどちらにも社会的価値が認められています。

就学前教育(0〜6歳)|“育ち”を支える土台づくり

デンマークの就学前教育は、0歳から6歳ごろまでの子どもを対象とした「保育」と「教育」が一体化した制度です。

具体的には、0〜2歳の子どもが通う保育園(Vuggestue)と、3〜6歳の子どもが通う幼児教育施設(Børnehave)に分かれています。

  • 対象年齢
    • 保育園(vuggestue):0〜2歳
    • 幼児教育施設(børnehave):3〜6歳
  • 教育のあり方
    • 教科教育ではなく、遊びや対話、自然とのふれあいを通じた人間形成
    • 「何を教えるか」よりも「どのように関わるか」を重視
  • 教育指針
    • 国家レベルで「就学前教育カリキュラム」が定められており、言語、感情発達、社会性、文化理解、自然とのかかわり、体の動きなど、6つの学びの領域が明示されています。

この段階では、「教える大人」ではなく「寄り添う大人」の存在が子どもたちの成長を支えています。

義務教育(6〜16歳)|自分の考えで社会とつながる

デンマークの教育において、6歳から16歳までの10年間は、義務教育期間として「フォルケスコーレ(Folkeskole)」に通います。

フォルケスコーレは、デンマーク全国に設置された公立学校で、0年生から9年生までの10学年で構成されます。

これは日本の小中学校に相当しますが、学年区分ではなく「学年なしのチーム制」を採る学校も多く、子ども同士の比較・競争よりも「対話」「参加」「協働」が重視される文化が根づいています。

フォルケスコーレの主な特徴:

  • 一律のカリキュラムではない
    • 国家カリキュラム(Fælles Mål)はあるが、各学校・教師の裁量で柔軟にアレンジ可能
    • 教師が教材を開発したり、児童の関心にあわせて学びを組み立てたりできる
  • 点数評価は基本なし
    • 通知表も9年生までは文字評価またはコメント形式が基本
    • 試験は義務教育修了時の「統一試験(FP9)」が1度あるのみ
  • 教科横断型の学習
    • 社会・算数・理科を横断するようなプロジェクト型授業が日常的に行われる
    • 子どもが「自分の問い」から調べ学び、それを表現する過程が重視される

また、授業内には「協働」「自己表現」「対話」といった社会的スキルを育む時間が自然に組み込まれており、学校全体が「小さな民主社会」のように機能しています。

中等教育・高等教育(16歳以降)|進路の自由と社会的承認

義務教育を終えた後、16歳以降の子どもたちは、自らの進路に応じて中等教育機関を選択します。

進学希望者はギムナジウム(Gymnasium)などの普通教育課程へ、職業志向の生徒は職業教育訓練機関(EUDなど)へ進みます。

このように義務教育を終えたあとの進路は、学術・職業の2系統に大きく分かれますが、どちらが上・下という意識は社会にほとんどなく、「自分に合った選択をする」こと自体が尊重されているのがデンマークの大きな特徴です。

A. アカデミックルート(大学進学型)

  • ギムナジウム(Gymnasium)
    • 3年間
    • 普通教育が中心で、大学進学を見据えた内容
    • 話し合い・プレゼン・探究レポートの比重が高い
  • HTX(工業系)/HHX(商業系)
    • より専門性の高い学科も選択可能

B. 職業教育ルート(EUDなど)

  • 職業教育訓練(VET:Vocational Education and Training)
    • 学校+企業研修(インターンシップ)を組み合わせたデュアルシステム
    • 実社会とのつながりが強く、早期に職能スキルを身につけられる
  • 職人系、介護・保育、IT、建設、料理など多分野

このように進路選択の自由が尊重されており、学業と職業のどちらにも価値があるという社会的な合意が背景にあります。

学費・支援制度|教育の機会均等を制度が支える

デンマークでは、教育を受けることはすべての人の基本的な権利であるという考えのもと、経済的な事情によって進学や学びが妨げられることがないよう、制度的な支援が充実しています。

公立教育機関の授業料は原則としてすべての段階で無償とされており、さらに高等教育段階では国からの生活支援金(SU:Statens Uddannelsesstøtte)が給付されます。

これにより、家庭の所得水準にかかわらず、誰もが自分の希望に応じた進路を選択しやすい環境が整えられています。

  • 授業料はすべて無料
     就学前教育から大学・専門職大学まで、原則として公立機関では授業料がかかりません。
  • 生活支援金(SU)の支給
     高等教育機関に在籍する学生には、国から月額で給付型の生活支援金(SU)が支給されます。
     一定の成績要件や進捗管理はあるものの、返済義務のない給付型制度である点が大きな特徴です。
  • 追加手当制度(SU supplement)
     学生がアルバイト等をしながら学ぶ場合、家庭状況や障がいの有無等に応じて追加の手当が支給されることもあります。
  • 職業教育の有給訓練制度
     EUDなどの職業教育では、企業研修期間中に実習先からの報酬(給与)を受け取ることができ、学びながら経済的自立を支援する仕組みが整っています。

このような制度的支援により、デンマークでは経済的背景による教育格差が生じにくい構造が実現しており、長期的な教育成果や社会的信頼にもつながっています。

教育段階年齢特徴
就学前教育0〜6歳非認知能力・遊び中心の教育、国家ガイドラインあり
義務教育6〜16歳対話・探究・協働を重視、点数評価は少なめ
中等・高等教育16歳以降学問と職業いずれも選択可能、社会が両方を承認
経済的支援全段階授業料無料+高等教育では給付型支援あり

デンマークと日本の教育制度の違いとは?特徴を比較して解説

デンマークの教育現場を訪れるとまず感じるのは、「子どもを一人の人間として尊重する」という考えが出発点にあること。

私たちが慣れ親しんできた日本の教育とも、少し毛色の違う工夫や考え方が随所に見られます。

制度の枠組みや学年構成といった形式面では一見似ているものの、教育に対する考え方や現場での実践には、それぞれの社会や文化に根ざした明確な違いが見られます。

ここでは、以下の観点から両国の教育制度を比較し、それぞれの特徴を見てみましょう。

  • 就学時期の柔軟性
  • 教室におけるルール形成のあり方
  • 学びのスタイル(教授法・カリキュラム)
  • 評価制度と成績の扱い方
  • 学校の役割と教育の最終目的

就学開始時期:年齢一律か、「育ち」に合わせるか

デンマークでは、義務教育のスタートとなる「0年生」(6歳)の前に、ミニクラスと呼ばれる移行期間があります。これは、幼稚園から学校へスムーズに馴染むための準備段階で、遊びと交流を通じて学校生活に慣れていく大切なステップです。

また、日本では、原則として満6歳になった年度に小学校へ一斉に入学しますが、デンマークでは子どもの発達段階に応じて入学時期を柔軟に調整することができます。

デンマークの主な特徴:

  • 就学前に「ミニクラス」と呼ばれる移行期間(準備学級)を設置
  • 保護者と学校が相談のうえ、1年程度の就学延期学齢猶予)も制度的に認められる
  • クラス内には、年齢差がある子どもたちが自然に混在していることも珍しくない

このように子どもが「準備ができたタイミングで学び始める」ことを、制度として支えているのがデンマークの教育における特徴です。

教室内のルール形成:与えられるか、共に考えるか

日本の学校では、教師がルールを定め、それに従うことが基本とされています。

一方、デンマークの学校では、子ども自身に単に「ルールを守らせる」のではなく、「ルールの意味を一緒に考える」機会が重視されています。

たとえば、お片付けの時間に「自分が使っていないから片付けたくない」という子どもがいたとき、先生はまずその理由を丁寧に聞いたうえで、「これは“みんなで共有した場”を一緒に整えることなんだよ」と語りかけます。

  • 日本:
    • 教師が明示したルールを守ることが求められる
    • 形式や手順の遵守に重点が置かれる
  • デンマーク:
    • 子どもと教師がルールの意義を話し合う
    • 「なぜそれが必要か」「みんなでどう決めるか」を共有する

子どもの言い分を受け止めたうえで、社会で暮らすうえでの“共生”や“責任”を、体験として教えていく──そんな姿勢が、デンマークの教育現場では日々の関わりのなかに自然と溶け込んでいます。

学びのスタイル:一斉授業と探究型プロジェクトの違い

学習スタイルにも、両国の教育観の違いが現れています。

  • 日本の授業スタイル:
    • 教師主導の一斉授業が中心
    • 教科書に基づいた「教科ごと・単元ごと」の進行
    • 知識のインプットと理解度テストが評価の中心
  • デンマークの授業スタイル:
    • 子どもの関心や疑問を出発点にする探究型・対話型学習
    • 教科横断型のプロジェクトが頻繁に導入される
    • 実生活との接続が重視され、学びが「社会で役立つ力」になるよう設計されている

デンマークでは、子どもの関心や疑問を出発点にする探究型・対話型学習が主流で、教科横断型のプロジェクトが頻繁に導入されます。これは、学びを実生活と結びつけ、「社会で役立つ力」を育むためです。

たとえば、小学校の環境学習の一環として、子どもたちが家庭で節水の取り組みを行うといったプロジェクトが組まれることがあります。算数の時間には節水量を立方メートルで計測・算出し、国語や表現の時間にはそのデータをクラスで共有し、ポスターやスピーチで発表します。そして、社会性を育む一環として、学校全体の水利用ルールの改善につなげるといった形で「考える→表現する→変化を生む」という一連の経験が日常的に行われています。

このような学びの根底には、幼児期から大切にされている「遊びの中に知る喜びがある」という考え方があります。遊びを通して、子どもは社会のルールや他者との関係性を自然と学んでいくのです。

評価のあり方:数値による序列か、学びのプロセスか

日本では、定期テストや通知表による数値評価・順位付けが一般的ですが、デンマークでは、学びの過程や表現の多様性を評価する文化が根づいています。唯一の統一試験は9年生時に実施されますが、それも将来の進路選択の参考情報という位置づけです。

日常の評価は、どのように考え、どのように取り組んだかといった“過程”や“表現”に焦点が当てられ、文字だけでなく図や模型、プレゼンなど多様な手段でアウトプットすることが尊重されています。

デンマークにおける評価の特徴:

  • 義務教育(9年生)までは基本的にテストや成績による序列なし
  • 子どもごとの取り組み姿勢、表現、成長のプロセスを教師が観察と対話を通じて評価
  • 表現方法も文章・図・プレゼン・模型など多様性を尊重
  • 唯一の統一試験(FP9)は、進路検討の参考資料として活用され、合否やランク付けのためではない

このような評価制度は、「点数ではなく、成長と対話を重んじる教育観の反映です。

学校の役割:学力養成か、市民性の育成か

日本の学校教育は、学力向上と進学実績の向上を主要な目的とする傾向が強い一方、デンマークの教育制度では、学校を「小さな民主主義社会」として機能させることが制度設計の前提にあります。

子どもは小さなころから、「自分はどう思うか」「どうしてそう思うのか」を言葉にし、異なる意見と出会いながら対話を通じて合意をつくる力を育てていきます。

このような学びの背景には、「人は違って当たり前であり、違いを乗り越えて共に生きる」という深い価値観があるのでしょう。学校はまさに、その「共に生きる力」を練習する場なのです。

デンマークでの学校の役割:

  • 自分の意見を持つこと、相手の話を聞くこと、対話を通じて合意を形成すること
  • 多様性や違いを前提とした共生のあり方を日常的に学ぶ場
  • 子ども自身が「社会の一員である」ことを体験的に理解する構造

学校は、単なる知識の伝達機関ではなく、未来の市民を育てる場として位置づけられています。

日本とデンマークの教育制度の比較表

観点日本デンマーク
就学開始時期年齢一律発達状況により柔軟に調整
教室のルール教師が提示子どもと共に合意形成
授業スタイル一斉授業中心探究・教科横断型
評価方法点数・通知表・定期テスト過程重視、観察と対話ベース
学校の役割学力形成、進学準備民主主義の実践と社会性の育成

このように、デンマークと日本の教育制度は、制度構造だけでなく教育の目的や価値観そのものに大きな違いがあります。

デンマークの教育制度を支える専門職「ペダゴー(ペタゴー)」の存在

デンマークの教育現場に欠かせない存在として、「Pædagog(ペダゴー/ペタゴー)」という専門職があります。
これは日本語でぴったり訳すのが難しいのですが、保育士・放課後支援員・ソーシャルワーカーなどの役割を横断的に担う、福祉と教育の両面に精通した専門職です。いわば“子どもと社会の架け橋”のような存在ともいえるかもしれません。

子どもとともに過ごす、寄り添いのプロフェッショナル

ペダゴーは、子どもの「学び」だけでなく「生活」や「感情面の成長」に深く関わります。

たとえばある幼児教育施設では、朝登園してきた子ども一人ひとりに、ペダゴーが名前を呼びながら笑顔であいさつし、その日の様子をそっと観察しています。元気がない子がいれば「今日はちょっと疲れてる?」と声をかけたり、抱っこして安心させたり。
ペダゴーにとって大切なのは、ただ教育を“提供する”ことではなく、「その子が今日、どんな気持ちでここにいるか」を感じ取ることなのです。

高度な専門性と倫理観が求められる職業

ペダゴーになるには、大学で3年半以上の専門教育を受ける必要があります。学ぶ内容は、教育学・発達心理・福祉・哲学・リーダーシップ論など多岐にわたり、「人を支えるための学問」をじっくりと身につけます。

単なる“子ども好き”では務まらない。
個人の価値観や多様性を尊重しながら、社会の一員として成長していけるよう、子ども一人ひとりを丁寧に見つめ続ける姿勢が求められる仕事です。

ペダゴーがいることで守られている、子どもの“尊厳”

日本の保育や教育現場では、教員や保育士が多忙を極めるなかで、子どもの“心のケア”まで手が回らないことも少なくありません。

一方でデンマークでは、ペダゴーという専門職が「教育でも、福祉でも、家庭でもない“あいだ”」のケアを担うことで、子どもたちの尊厳が守られています。

「この人は、いつでも自分の味方でいてくれる」──そう信じられる大人がそばにいること。それが、子どもにとってどれほど大きな安心になるかを、デンマークの教育制度は教えてくれます。

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