「世界一幸福な国」としても知られる北欧・デンマーク。
実際、国連の「世界幸福度ランキング(SDSN調べ)」では例年トップクラスにランクインしており、その背景には、子ども時代から社会全体で支えられる“教育のかたち”があるといわれています。
デンマークの教育制度は、テストの点数や偏差値にとらわれず、「その子らしさ」や「自分で考える力」を育てることを大切にしています。子どもを一人の人間として尊重し、安心して学び、育つことのできる環境が、制度として整えられているのです。
この記事では、デンマークにおける教育制度の全体像と特徴をわかりやすく紹介するとともに、日本との違いや、教育と福祉の専門職「Pædagog(ペダゴー/ペタゴー)」の役割にも光を当てていきます。
「学ぶこと=生きること」と自然に感じられる教育のあり方から、私たちの教育観や子どもとの向き合い方を見つめ直すヒントが見えてくるかもしれません。
デンマークの教育制度とは?
デンマークの教育制度では、学びを通じて知識を得るだけでなく、自分自身の価値観を育み、社会とのつながりを感じながら成長できるような仕組みが整えられています。
特徴的なのは、各段階で子ども自身の主体性や個性を尊重するアプローチが貫かれていることです。気になるポイントをフェーズごとに見ていきましょう。
就学前教育(0〜6歳)
保育園(vuggestue)や幼児教育施設(børnehave)などで、遊びや対話を通じた「非認知能力(自己表現力・共感力など)」の育成が重視されます。
単なる預かりの場ではなく、子どもの主体性を尊重した保育・教育が実践されています。
義務教育(6〜16歳)
日本の小中学校にあたるフォルケスコーレ(Folkeskole)に通い、10年間の義務教育を受けます。
一律のカリキュラムというよりも、国家指導要領に基づきながらも、学校ごとに柔軟に設計される教育内容が特徴です。成績よりも「対話」「参加」「協働」が重視される文化が根づいています。
中等教育・高等教育(16歳以降)
義務教育修了後は、多様な進路選択が可能です。
- 大学進学を目指す「ギムナジウム(Gymnasium)」
- 実践的なスキルを身につける「職業教育プログラム(EUDなど)」
このように進路選択の自由が尊重されており、学業と職業のどちらにも価値があるという社会的な合意が背景にあります。
授業料は原則無料、学生支援制度も充実
デンマークでは公立の教育機関は授業料が無料。さらに大学生や専門学生には、生活支援金(SU:Statens Uddannelsesstøtte)が給付されます。
経済的な理由で進学を諦めることがないよう、教育の機会均等が制度面から支えられています。
デンマークの教育制度の特徴|日本とここが違う
同じ「学校」という場でも、そこで育まれる空気や価値観はその場その場で大きく異なります。
デンマークの教育現場を訪れるとまず感じるのは、「子どもを一人の人間として尊重する」という考えが出発点にあること。私たちが慣れ親しんできた日本の教育とも、少し毛色の違う工夫や考え方が随所に見られます。
入学時期も一律ではなく、子どもの「育ち」に合わせて決められる
デンマークでは、義務教育のスタートとなる「0年生」(6歳)の前に、ミニクラスと呼ばれる移行期間があります。これは、幼稚園から学校へスムーズに馴染むための準備段階で、遊びと交流を通じて学校生活に慣れていく大切なステップです。
さらに就学年齢も、生まれ月や発達の個人差に応じて保護者と学校が話し合って決めることが多く、同じクラスに年齢差のある子どもがいるのも自然な光景です。
子どもが「準備ができたタイミングで学び始める」ことを、制度として支えているのが特徴です。
対話や納得を通じて、社会性や連帯感を育む
デンマークの教育現場では、「ルールを守らせる」のではなく、「ルールの意味を一緒に考える」ことを大切にしています。
たとえば、お片付けの時間に「自分が使っていないから片付けたくない」という子どもがいたとき、先生はまずその理由を丁寧に聞いたうえで、「これは“みんなで共有した場”を一緒に整えることなんだよ」と語りかけます。
子どもの言い分を受け止めたうえで、社会で暮らすうえでの“共生”や“責任”を、体験として教えていく──そんな姿勢が、日々の関わりのなかに自然と溶け込んでいます。
学びは探究型、そして「遊び」から始まる
授業もまた、子ども自身の問いや関心を出発点に、対話や体験を通じて深めていくスタイルが主流です。
たとえば小学校の環境学習では、節水の取り組みの成果を1立方メートルの箱で可視化し、「どれくらいの水をみんなで節約できたか」を体感しながら、単位換算や算数の学びにもつなげていくといった教科横断型の授業が行われています。
このような学びの根底には、幼児期から大切にされている「遊びの中に知る喜びがある」という考え方があります。遊びを通して、子どもは社会のルールや他者との関係性を自然と学んでいくのです。
「評価」は点数ではなく、子どもの姿をまるごと見るもの
デンマークでは、9年生まで通知表やテストの成績による序列づけは基本的に行われません。唯一の統一試験は9年生時に実施されますが、それも将来の進路選択の参考情報という位置づけです。
日常の評価は、どのように考え、どのように取り組んだかといった“過程”や“表現”に焦点が当てられ、文字だけでなく図や模型、プレゼンなど多様な手段でアウトプットすることが尊重されています。
学校は「小さな民主主義」を体験する場所
デンマークの教育は、「学校は民主主義を練習する場所である」という理念のもとに運営されています。
子どもは小さなころから、「自分はどう思うか」「どうしてそう思うのか」を言葉にし、異なる意見と出会いながら対話を通じて合意をつくる力を育てていきます。
このような学びの背景には、「人は違って当たり前であり、違いを乗り越えて共に生きる」という深い価値観があるのでしょう。学校はまさに、その「共に生きる力」を練習する場なのです。
デンマークの教育制度を支える専門職「ペダゴー(ペタゴー)」の存在
デンマークの教育現場に欠かせない存在として、「Pædagog(ペダゴー/ペタゴー)」という専門職があります。
これは日本語でぴったり訳すのが難しいのですが、保育士・放課後支援員・ソーシャルワーカーなどの役割を横断的に担う、福祉と教育の両面に精通した専門職です。いわば“子どもと社会の架け橋”のような存在ともいえるかもしれません。
子どもとともに過ごす、寄り添いのプロフェッショナル
ペダゴーは、子どもの「学び」だけでなく「生活」や「感情面の成長」に深く関わります。
たとえばある幼児教育施設では、朝登園してきた子ども一人ひとりに、ペダゴーが名前を呼びながら笑顔であいさつし、その日の様子をそっと観察しています。元気がない子がいれば「今日はちょっと疲れてる?」と声をかけたり、抱っこして安心させたり。
ペダゴーにとって大切なのは、ただ教育を“提供する”ことではなく、「その子が今日、どんな気持ちでここにいるか」を感じ取ることなのです。
高度な専門性と倫理観が求められる職業
ペダゴーになるには、大学で3年半以上の専門教育を受ける必要があります。学ぶ内容は、教育学・発達心理・福祉・哲学・リーダーシップ論など多岐にわたり、「人を支えるための学問」をじっくりと身につけます。
単なる“子ども好き”では務まらない。
個人の価値観や多様性を尊重しながら、社会の一員として成長していけるよう、子ども一人ひとりを丁寧に見つめ続ける姿勢が求められる仕事です。
教育現場だけでなく、地域のなかにもいる存在
ペダゴーは、保育園や小学校だけでなく、放課後のクラブ活動、障がいのある子どもの支援施設、若者支援の現場、高齢者と子どもが交流するコミュニティセンターなど、社会のさまざまな場面に関わっています。
ある小学校では、放課後クラブに常駐するペダゴーが、家庭の事情で孤立しがちな子どもに寄り添い、「話し相手」になりながら、その子が安心して過ごせる居場所をつくっていました。
学校でも家庭でもない“第3の場所”で、子どもにとっての「味方」であり続ける──そんな姿勢が、デンマーク社会に根づいています。
ペダゴーがいることで守られている、子どもの“尊厳”
日本の保育や教育現場では、教員や保育士が多忙を極めるなかで、子どもの“心のケア”まで手が回らないことも少なくありません。
一方でデンマークでは、ペダゴーという専門職が「教育でも、福祉でも、家庭でもない“あいだ”」のケアを担うことで、子どもたちの尊厳が守られています。
「この人は、いつでも自分の味方でいてくれる」──そう信じられる大人がそばにいること。それが、子どもにとってどれほど大きな安心になるかを、デンマークの教育制度は教えてくれます。
デンマーク式の学びをもっと深く知りたい方へ
この記事では、デンマークの教育制度とその背景にある考え方をご紹介してきました。
そこには「子どもを一人の人間として尊重すること」や「違いを前提に共に生きること」といった価値観が、学校という場のすみずみにまで息づいています。
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