「デンマークってどんな国?」
北欧の小さな国でありながら、世界幸福度ランキングの常連として知られるデンマーク。その秘密は、充実した福祉制度や教育システム、そして人々の暮らしの価値観にあります。
本記事では、デンマークの基本情報から、福祉・教育・暮らしの特徴までをわかりやすく解説します。
デンマークはどんな国?──基本情報と地理的な特徴
まずは「デンマークってどこにあるの?」「どんな国なの?」という基本的な情報から確認しましょう。北欧の一員として知られるこの国は、小さな国土ながらも独自の政治・文化・価値観を育んできました。日本とは大きく異なる社会の構造が、幸福度の高さとも深く関わっています。
デンマークの場所・人口・政治体制とは
デンマーク王国(Kingdom of Denmark)は、北ヨーロッパのスカンジナビア半島南端に位置し、ユトランド半島と400以上の島々から構成される立憲君主制の国家です。最大の島であるシェラン島には首都コペンハーゲンがあります。

2024年時点の人口は約593万人(外務省「デンマーク王国基礎データ」より)で、日本の都道府県で言えば兵庫県と同程度の規模です。面積は約4.3万平方キロメートルと、日本の約9分の1ほどですが、国民一人ひとりが政治や社会参加に積極的なことでも知られています。
デンマークと日本の時差はマイナス8時間(夏時間はマイナス7時間)で、たとえば日本が午後9時のとき、デンマークは午後1時です。日本からのアクセスについては、東京(成田)とコペンハーゲンを結ぶ直行便が運航されており、所要時間はおよそ11時間半〜12時間程度です。
政治体制は議会制民主主義であり、女王を元首とする立憲君主制。議会(フォルケティング)は一院制で、多様な政党が共存する連立政権が主流です。政治的な透明性や市民参加の高さは、国際的な信頼指数でも高く評価されています。
項目 | 内容 |
位置 | ヨーロッパ北部、ユトランド半島と島々から成る |
首都 | コペンハーゲン(シェラン島) |
面積 | 約4.3万km²(日本の約1/9) |
人口 | 約593万人(2024年、外務省) |
政治体制 | 議会制民主主義、立憲君主制 |
議会 | 一院制(フォルケティング)、連立政権が主流 |
国際スタンス | EU加盟、ユーロ非導入など自主的な政策判断も |
北欧諸国との違い・共通点
デンマークは、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランドと並ぶ「北欧5カ国」のひとつです。これらの国々は、高福祉国家モデル、ジェンダー平等、教育の普及、自然との共生といった共通の価値観を背景に、世界的に高い信頼を得ています。
中でもデンマークは、「公共機関への信頼水準が非常に高い国」として注目されています。OECDが2024年に実施した調査によると、デンマークでは人々の約7割が政府・議会・地方自治体・公務員などの公共機関を信頼していると回答しており、これはOECD諸国の中でもトップクラスの数値です。
※ 出典:OECD (2024) “Drivers of Trust in Public Institutions – Denmark”
特に信頼度が高いのは、地方自治体(73%)や司法機関(71%)であり、「日常の行政サービス」や「法の公平性」に対する市民の安心感が伺えます。さらに、公務員の動機を信じている国民の割合はデンマークが最も高いと報告されており、政治・行政の透明性や説明責任が強く意識されていることがわかります。
一方で、北欧の中でも国によって強みは異なります。たとえば、フィンランドでは教育分野のイノベーションやメディアリテラシーの高さが特筆され、スウェーデンは移民・多文化共生政策において独自の取り組みを進めています。
デンマークの特徴は、こうした共通点を持ちながらも、「社会的信頼と公共機関への信頼が一致して高い」点にあります。これは、人と人との関係だけでなく、制度や仕組みそのものが市民の信頼を獲得している社会であることを示しています。
なぜデンマークは「世界一幸福な国」と言われるのか
デンマークは、国連の「世界幸福度ランキング」で常に上位にランクインする“幸福の国”。では、実際にどのような要素が人々の幸福感を支えているのでしょうか。この章では、ランキングの根拠や、国民のライフスタイルに根付いた独自の価値観「ヒュッゲ」について詳しく紹介します。
幸福度ランキングと国民の満足度
国連が発表している「世界幸福度ランキング(World Happiness Report 2023)」では、デンマークは2023年に世界2位を記録しました。このランキングは、GDPや社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由、寛容さ、汚職の少なさといった複数の指標で構成されています。
注目されているのは、単に経済的な豊かさだけでなく、社会的な信頼感や公的支援の充実度が、国民の幸福感に強く影響している点です。デンマークでは、失業しても手厚い社会保障があり、子育てや老後の生活にも不安が少ないため、将来に対するストレスが小さいといわれています。
また、デンマーク人の「生活満足度」は、OECDの国際調査でも常に上位。こうした背景から「不安が少ない社会=幸福度の高い社会」として国際的な評価を得ているのです。
ヒュッゲに代表される暮らしの価値観
デンマーク社会を語る上で欠かせないキーワードが「ヒュッゲ(hygge)」です。これは「居心地のよさ」や「安心できる雰囲気」といった意味を持つデンマーク語で、家族や友人と穏やかな時間を過ごすこと、日常の中に小さな幸せを見出すことを大切にする文化です。
たとえば、キャンドルを灯して温かい飲み物を飲みながら語り合う、何気ない夕食を楽しむ…そうした“ゆるやかな時間”を意識的につくり出すのがヒュッゲの実践。これは、物質的な豊かさに頼らず、「今ここ」にある心地よさを大切にするという、幸福観の土台になっています。
ヒュッゲは個人だけでなく、社会や教育現場にも浸透しています。学校では「競争より協調」を大切にし、職場では「成果よりも信頼関係やチームの快適さ」が尊重される場面も少なくありません。これにより、人と人との距離が近く、ストレスが少ない社会環境が形成されているのです。
デンマークの福祉制度はどうなっている?
高福祉国家として知られるデンマークでは、教育・医療・子育て・老後に至るまで、幅広いライフステージを手厚く支える制度が整備されています。一方で、その裏には高い税負担があることでも有名です。なぜそれでも国民の支持を得ているのでしょうか?ここでは、税と福祉のバランス、そして制度の中身を見ていきましょう。
高福祉を支える税金と社会保障
デンマークの福祉制度は、「高負担・高福祉」のモデルで成り立っています。所得税率は世界でも屈指の高さで、最高税率は約55%に達しますが、これに対して国民の不満は少ないと言われています。なぜなら、支払った税金が「見えるかたち」で還元されているからです。
たとえば、公立病院での診察や入院は無料、育児休業は両親ともに手厚く保障され、失業時には一定期間の給付と再就職支援が提供されます。また、年金制度も充実しており、高齢者が孤立しない仕組みが整っています。
社会保険料が少なく、税による全体負担の中で再分配がなされている点も特徴です。こうした仕組みによって、所得格差が縮まり、「誰もが最低限の安心を持てる社会」が実現されているのです。
出典:デンマーク王国基礎データ(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/denmark/data.html
医療・育児・老後の安心がある社会
医療制度は、税金によって全額賄われる「国民皆保険」型。かかりつけ医制度が整っており、必要があれば紹介状を経て専門医へアクセスできます。診察・検査・入院すべてが基本的に無料で、費用面での不安が少ないのが特徴です。
育児支援も非常に充実しており、保育施設の整備率は高く、料金も所得に応じて調整される仕組みです。また、父親の育児参加も社会的に推奨されており、「家族のあり方」そのものを社会全体で支えていこうとする姿勢が見られます。
高齢者福祉においては、在宅介護や地域コミュニティとの連携が進んでおり、「施設に入る前に、家で快適に過ごすための支援」が充実しています。孤独を防ぐための訪問制度やデイサービスの整備も進んでおり、高齢化社会に対する先進的な対応として注目されています。
次の章では、こうした福祉と並ぶもう一つの柱、教育制度にフォーカスを当てていきます。学費が無料なのに、なぜ学力や満足度が高いのか。その秘密を見ていきましょう。
デンマークの教育制度が注目される理由
福祉と並び、デンマークの社会制度を語る上で欠かせないのが教育です。とくに「学費は無料」「落第がない」「子どもの個性を尊重する」といったキーワードは、日本の教育観と大きく異なるものとして多くの注目を集めています。ここでは、なぜデンマークの教育制度が世界から高く評価されているのかを、2つの視点から解説します。
学費無料でも学力が高い仕組みとは
デンマークでは、幼児教育から大学までの教育費が原則無料です(文部科学省「諸外国の高等教育における授業料と学生支援制度」)。EU加盟国の中でもこの制度を貫いている国は少数で、国民の教育を国家全体の責任として位置づけている点に特徴があります。
ただ無料なだけでなく、実際に学力や教育満足度が高いことも注目に値します。OECDの調査によると、デンマークの生徒たちは「学ぶ意欲」「教師との信頼関係」「学校生活の満足度」で高い評価を受けています(OECD PISA, 2022年)。
これは、「自分で学びを選ぶ自由」と「社会全体が教育に価値を置いている風土」の両方が支えているからです。例えば大学生には国家から生活費を支援する「SU(Statens Uddannelsesstøtte)」制度もあり、経済的背景にかかわらず、誰もが学ぶ機会を持てる社会が実現されています。
「子ども主体」の学びを大切にする文化
デンマークの教育の根底には、「子どもは未熟な存在ではなく、対等な個人である」という価値観があります。教室では教師が一方的に教えるのではなく、生徒同士が対話したり、グループワークで意見を交わすスタイルが一般的。こうした学び方は、知識よりも“思考する力”や“対話する力”を育てることを目的としています。
また、デンマークでは「競争」より「協働」に重点を置き、点数評価よりもプロセスや成長に目を向ける教育観が根づいています。学校現場では、子どもの感情や人間関係に関するケアも重視され、「幸福に学ぶこと」が教育の目標のひとつとされています。
このような教育のあり方は、PISAなどの国際学力調査でも一定の成果を上げており、“学びの質”と“個人の幸福”を両立するアプローチとして、世界中の教育関係者から注目を集めています。
デンマークと日本の教育・福祉の違い
ここまで見てきたデンマークの制度や価値観は、日本とは根本から異なる部分も多くあります。この章では、特に教育と福祉の観点から、デンマークと日本の違いを比較しながら整理します。それによって、私たちが社会のあり方や支援の仕組みについて考えるヒントが見えてくるはずです。
知識重視 vs 対話重視の教育観
日本の教育は、長らく「知識の習得」と「正解の提示」に重きが置かれてきました。テストの点数や偏差値による評価が主流であり、個々の興味や感情よりも“成果”が重視される傾向があります。
一方で、デンマークでは「子ども自身が学ぶ目的を見つけ、他者と協働しながら探求する力」を育てることが重要とされています。教師と生徒の関係もフラットで、意見を尊重し合う「対話の文化」が根づいています。
その背景には、「子どもは未熟な存在ではなく、意思を持った一人の人間である」という価値観があります。これは日本の「大人が導くべき存在」という観念と対照的です。こうした違いは、教室の風景や教育のゴール設定にまで表れています。
子育てや介護を「社会全体」で支える発想
福祉の面でも、デンマークと日本ではアプローチが大きく異なります。日本では「家族が担うべきもの」という意識が強く、介護や子育てにおいて個人や家庭の負担が大きくなりがちです。
一方でデンマークでは、福祉は「社会全体の責任」として制度化されているため、子どもを保育に預けることも、高齢者の在宅支援を受けることも、「自立した個人として当然の権利」として捉えられています。
また、男女平等の考え方が徹底しているため、育児休業や介護への参加も男女問わず当然とされており、働きながら生活を大切にするというバランスが制度的に支えられています。
日本では近年こそ「共働き」「ワークライフバランス」といった言葉が浸透しつつありますが、制度設計の点ではまだ課題が残ります。デンマークのように「誰もが安心して支援を受けられる社会」の実現には、社会的な合意形成と政策の後押しが必要です。
デンマークに学ぶ、“人を育てる社会”のあり方
北欧・デンマークの社会制度に触れるとき、私たちが感銘を受けるのは、単なる「仕組みの充実」ではなく、そこに通底する“人を信じ、育てる”という哲学にあるのではないでしょうか。
教育では、子どもを一人の対等な存在として尊重し、問いや対話を通じて学びを深めていく。福祉では、困りごとを「その人の問題」と切り離さず、「社会全体で支える」ことが当然とされる。こうした在り方は、効率や成果を重視しがちな日本の現場に、あたたかく静かな問いを投げかけてくれます。
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